法と正義
1996年10月 第11号
法と正義の関係は、どのようになっているのであろうか。
単純に考えると、人々が正義と考えるところが法になるはずである。
日本は成文法の国だから、ここの「法」とは国会が制定する「法律」ということになる。
しかし、正義と法が一致すると単純に言い切れない場合もある。
今回の沖縄のアメリカ軍軍用地の強制使用についての知事の代理署名問題がそれである。
法律という視点から見ると、日米安保条約によって日本は軍用地をアメリカに提供する義務を負っている。
具体的な手続としては沖縄県知事が地主に代わって署名するわけである。
今回知事は代理署名を拒否して裁判になり、高裁、最高裁は代理署名を拒否することが違法と判断した。
軍用地を提供することが公益にかなうというのである。
確かに、アメリカ軍が駐留することによって日本や極東の安全が守られるという面はある。
現在の世界情勢からみて、軍事力によって安全が保たれるという面はある。
その意味で、安保条約という「法律」の背後には公益、正義があるといえる。
しかし、他方、軍用地があるために沖縄県民が被害を受けていることもたくさんある。
昨年起きた米兵による少女暴行事件もそうであるし、その他の米兵による犯罪も多数ある。
また、土地のかなりの部分を軍用地に使用されるため、
土地利用ができず経済発展にブレーキがかかっている面もあろう。
また、軍用機の騒音などの問題もある。そして、何より有事の際にはアメリカ軍基地が攻撃され、
民間人である沖縄県民がまきこまれるおそれがある。
沖縄は第二次大戦の折も、唯一地上戦が行われた場所であり、
本土の人間の楯となって多数の人たちが犠牲となっている。
沖縄は戦後もその延長として、日本人全体の犠牲となって、アメリカ軍駐留に堪えてきたのである。
知事は沖縄県民の万感の思いをくんで代理署名拒否に及んだのであろう。
このへんで沖縄の負担を軽くしてあげるという考えも、また正義に合致するものである。
そうすると、代理署名を強制することも、代理署名拒否することも共に正義に合致することになる。
しかし、代理署名拒否という正義に「法律」の裏づけはない。
今回は、裁判所によってこの一方の正義(代理署名強制)が指示されたわけであるが、
他方の正義(代理署名拒否)が正義であることもかわらないと思われる。
最後はその人間の価値観によって、いずれの正義をとるかという問題に帰着するかもしれない。
後者の正義をとれば、「法律」に違反することになる。
法と正義の問題は人間にとって永遠の課題である。
岡義博法律事務所
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